精神科医Dr.Chikaの音楽と認知症

楽曲制作と認知症重症者への個別音楽聴取に取り組んでおります。

認知症の方の思い出の曲を探る〜大衆音楽文化の50年の変化〜

最近では聴きたい曲に容易にアプローチできるようになり、認知症の方ご自身では無理でも、介助者がスマートフォンなどで検索して、思い出の曲を聞かせることは可能です。

しかし、思い出の曲がわからない方へ、どの曲を聞かせたらよいのか、認知症老健での個別音楽聴取の施行にあたって、選曲を行った過程を紹介したいと思います。


Dr.Chikaの『音楽と認知症』パート2 パーソナルソング:高齢者の好きな曲

 

現在、施設に入所している認知症の高齢者の方は70代後半から80代の方がほとんどです。90代の方もいらっしゃいます。今、認知症の方が若い頃は、現代とは文化も音楽的な背景も大きく違います。

大衆音楽文化の変化

近年ポピュラーミュージックは多様化し、共通の認識としての流行曲や、世代の曲、というものは薄れて行っているようです。

音楽の種類とともに個々人の嗜好性の多様化、それに応じて聞きたい曲にすぐにアプローチできるインターネットなどの環境があります。

音楽の媒体もレコードやCDを専用プレーヤーで再生する方法から、現在では曲単位で音楽データを購入・ダウンロードするという形式や、ストリーミングが主流となっているようです。また、音楽以外の文化・消費形態が多様化したことで、そもそも音楽自体に無関心という人の割合も増えたのだそうです。

今の認知症の方が若い頃の時代背景

現在の年齢から遡ると、1950年代、1960年代が現在の認知症患者さんの若い頃の中心となる年代と言えます。

白黒テレビの放送開始は1953年ですが、本格的にテレビが普及したのはもう少し後で1964年の東京オリンピックが契機となり、1967年には白黒テレビの普及台数が2000万台を超え、一家に一台の時代を迎えたそうです。

音楽を吸収する機会は、映画やラジオ、テレビが中心で、メディアや音楽の嗜好が多様化した現代と比べると、多くの人が共通の流行曲を聞いていたと考えられます。

そのため、重度の認知症で思い出の曲を聞き取れない方でも 、現在の年齢から遡って、若い頃に聞いた曲を推測できそうです。

特に60年代後半は大半の高齢者にとって、初めて居間でテレビを観はじめた時期なのではないかと推測できます。

 

60年代後半の歌謡曲

こちらは60年代後半の歌謡曲のヒット曲を、年ごとに数曲ずつ選んで表にしたものです。

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このようなたくさんの曲がある中から、各年1曲を目安に、集団のレクにも使えるような楽しい曲やメロディーの綺麗な10曲を選び、その他に、その他の年代も含めたカラオケの人気曲などを参考にして4曲追加しました。

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個別音楽聴取で使用した共通曲

追加の4曲は(「港町十三番地」、「上を向いて歩こう」「津軽海峡冬景色」、「川の流れのように」)。

事前に選定した14曲に加え、個々人から曲を聞き取れた場合は別途、個別曲としてリストに加えました。

 

共通曲への反応

選んだ曲を実際に聴いてもらいました。

やはり昔聞いたことがある、という方がほとんどだったようです。ところどころ口ずさんだり、リズムをとったり、無言で聞いていた方にも、「知ってる曲あった?」と聞くと、「あった」と答えていました。聴きながら急に涙ぐむ方もいらっしゃいました。

 

個別曲への反応

事前に聞き取って個別に用意した思い出の曲への反応は概ね良好でした。他の曲の時は黙って聞いていても、個別曲では口ずさむ方・リズムをとる方もいました。

しかし、もともと音楽が好きな方が、好きだったはずの曲を聞いている場合でも、認知症の症状によって、怒りっぽさや拒否がある場合は、「いつまで聞くんだ」と怒ったり拒否がみられる場合もありました。

 

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