認知症専門床での個別音楽療法
私が勤務する認知症専門老人保健施設に入所されている認知症の重症者の方に、ヘッドフォンで個々の思い出の曲を聴いていただく個別音楽療法。
施行終了した方についての報告です。
Dr.Chikaの『音楽と認知症』パーソナルソングが認知症患者の心を呼び覚ます
個別音楽療法の報告15
匿名Oさん 70代後半/女性 アルツハイマー型認知症(HDS-R 0点)
【普段の様子】
歩行:手引き リハビリ参加:不可 自発語:あり 問題症状:介護抵抗 意思疎通:可
【好きな曲の情報】
【反応が良かった聴取曲】
【聴く前の様子】
表情険しい・テーブルに顔を伏せている
【聴いている時の様子】
曲が始まると、目をつむって手すりを叩いたり足踏み、膝を叩く動作あり。
はっきりと歌っている。スタッフが「美空ひばりさんはずっと好きなんですか?」と尋ねると「何年経ってもそういう思い出いっぱいありますから」と返答あり。普段は険しい表情がやわらいでいた。
個別音楽療法の報告16
匿名Pさん 80代前半/女性 レビー小体型認知症(HDS-R 4点)
【普段の様子】
歩行:車椅子 リハビリ参加:不可 自発語:あり 問題症状:介護抵抗 意思疎通:可
【好きな曲の情報】
なし
【反応が良かった聴取曲】
真赤な太陽(美空ひばり)・ブルーライトヨコハマ(いしだあゆみ)
【聴く前の様子】
表情険しく拒否的
【聴いている時の様子】
リズムに合わせて手拍子あり・はっきりと歌っている。涙が出ていた。
「楽しかったよ。ありがとう。憩いの場を作ってもらって・・」とスタッフに話していた。
個別音楽療法の報告17
匿名Qさん 80代後半/女性 認知症(HDS-R 11点)
【普段の様子】
歩行:自立 リハビリ参加:一部参加 自発語:なし 問題症状:活動性低下 意思疎通:可
【好きな曲の情報】
【反応が良かった聴取曲】
真赤な太陽/港町十三番地(美空ひばり)・銀座の恋の物語(石原裕次郎・牧村旬子)
【聴く前の様子】
傾眠
【聴いている時の様子】
表情穏やかに所々歌っている。うなずきリズムをとったり拳を握り踊るような動作を見せる。一緒に聞いていた同テーブルの利用者さんの踊る仕草を見て拍手をしている。社交ダンスの手の添え方をスタッフに教えてくれた。
個別音楽療法の報告18
匿名Rさん 80代前半/女性 アルツハイマー型認知症(HDS-R 8点)
【普段の様子】
歩行:自立 リハビリ参加:不可 自発語:あり 問題症状:大声 意思疎通:不可
【好きな曲の情報】
【反応が良かった聴取曲】
【聴く前の様子】
訴えが多く大声を出すなど落ち着かない様子
【聴いている時の様子】
歌詞の内容を拾って話をしている。「君といつまでも」を聴いた時に「これ加山?」と質問あり、歌手名を覚えていた。曲によっては「あんまりうまくないね。素人みたい。」と辛口の評価も話されていた。ところどころ歌い、頷くようにリズムをとっていた。「大月みやこないの?」と何度も質問あり、大月みやこさんの「涙川」を聴いていただいたところ「知らない、この曲。」と話しながらも、他の曲に比べ落ち着いている様子であった。
*個別音楽療法は、認知症重症者のQOLの向上や問題症状の緩和を目的に、私が勤務する認知症専門老人保健施設での独自の取り組みとして実施しています。
エッセイ「記憶への扉」
最近Electric Light Orchestra(ELO)の曲をよく聴くようになりました。
mr blue skyから辿ってELOを初めて知るようになったつもりでしたが、好きな音楽というものは何かと繋がっているもので、調べてみると、ビートルズの「Free As A Bird」と「Real Love」、ポールマッカートニーの「Flaming Pie」、ジョージハリスンの「Cloud Nine」「Brain Washed」などのプロデュースを行ったジェフ・リンのバンドでした。
よくよく思い返すと、以前ビートルズのカバー演奏活動を行っていたライブバーで、ジェフ・リンの話を聞いたことがあったり、ELOのOut Of The Blueに収録されているジャングルという曲をカバー・バンドが演奏していたのを聴いた気がしてきたりと、ELOの曲を聴いたことで記憶の片隅にあった10年以上前の情景が思い出されてきました。
私の音楽の嗜好が多少偏りがあることはさておき、認知症重症者への個別音楽療法において重要なことは、ご本人から得られる情報・手がかりが少ない中で、それぞれの利用者さんの思い出につながる曲を探し当てることです。
認知症の重症者の方は、すでにいろんなお話ができないご状態になっているために、
思い出の曲を聴いている時に、何を思って笑ったり、突然に泣き出したりしているのかまでは残念ながらわかりません。それでも多くの方が、聴きだすと突然に笑顔になって歌い出したり、泣き出したりしていることは、まぎれもない事実として、観察をさせていただいております。
体操をしたり、塗り絵やゲームや書道をしたりなどの通常の作業療法ができなくなっても、最後まで音楽を聴くことはできて、曲を覚えていて歌うこともできる。曲に関連する記憶を回想して何かを話そうとしてくれたり涙を流したりする。
今目の前にいる多くの重症の利用者さんたちには、あまり時間が残されていない現実があります。認知症末期の多くの利用者さんにみられるように、無表情・無言で食事・睡眠・入浴・排泄を繰り返すだけの毎日ではなく、QOLをあげることに貢献できる残された手段として、個別音楽療法の観察研究を続けたいと思います。
お読みいただきありがとうございました🎧🐈📰