精神科医Dr.Chikaの音楽と認知症

楽曲制作と認知症音楽療法に取り組んでおります。文章を書くのはあまり得意な方ではないため、読みづらい箇所もあるかと存じますが、ご容赦いただければ幸いです。

【音楽と認知症】個別音楽聴取 2020年までの結果概要と2021年の抱負

今年は、認知症専門床に入所される、多くの重度の認知症の利用者さんに、ヘッドフォンで思い出の曲を聴いて頂きました。

その中から、28名の方について観察記録を行い、昨年までに観察を行なった6名の方も合わせて34名の方の反応から、重度の認知症の方への音楽聴取の効果を検証しました。

今年の結果の概要と、来年の抱負をまとめました。

方法の概要

  • 2018-2020に認知症専門床に入所された、通常のリハビリ介入が困難である、重度の認知症の利用者さんを対象に、個々人の思い出の曲を、ヘッドフォンで聴いていただいた
  • 頻度は1回3曲を合計5回(15曲)。反応が高く、問題症状が顕著な方については、そのまま長期間にわたって聴いていただいた。
  • 認知症高齢者のQOL評価表と、周辺症状(心理的な症状)のスコア(NPI-Q)を用いて介入前後の様子を評価した
  • 聴いている時の反応有無を、5つの項目(歌唱・回想発言・曲名想起・表情変化・体動)で評価した
施行時の反応5項目について

尚、5項目の反応の有無は以下のような脳の機能が保たれているかどうか、についての指標と考えました。

歌唱:手続き記憶(自転車の乗り方、ギター演奏など習得したことの記憶)や言語能力

回想発言:エピソード記憶(思い出の記憶)

曲名想起:意味記憶(言葉の意味などの記憶。ただし曲を知っていることが前提条件)

表情変化:情動の変化

体動:リズム感

検証した内容

  • QOLや周辺症状の改善が見られた方と見られなかった方での、属性(年齢・性別・病名・重症度など)の傾向を検証しました。
  • 聴いている時の反応有無について検証し反応測定を行うと同時に、反応があった方となかった方での、属性の傾向を同様に検証しました。

結果概要1-QOLや周辺症状の改善と属性評価について

34名中28名へ全5回施行可能でした。(2名は拒否、4名は5回未満でした。)

全5回施行した28名中、QOLの改善傾向を認めた14例と、不変の14例を比較検証しました。

その結果、

  • 改善例で年齢平均・生年平均ともに若い(79.1歳<82.8歳)、
  • HDS-R平均が低い(3.8点<5.8点)

2つの傾向が見られました。

またQOL改善が見られた14名のうち、3名で周辺症状のスコアの改善が見られました。

考察1

施行前のHDS-Rが低いほど(認知症が進行しているほど)、音楽聴取によるQOL上昇が見られやすい可能性が示唆されました。

音楽は聴覚や視覚・運動・情動等と連動して記憶され、認知症の影響を受けにくいとされます。

こちらの傾向について、重症であるほど、音楽の記憶と中核症状との格差が大きく、情動変化からQOL上昇を起こしやすいのではないか、と仮説を考えてみました。

年齢の傾向については、老化あるいは、選曲や時代背景の両面から検証していきたいと思います。

今回の傾向については、より多くの方に思い出の曲を聴いていただいた上で、来年以降も、検証していきたいと思います。

 

結果概要2-聴いている時の反応有無と属性評価について

拒否がみられた2名を除いた32名の方について、多い順に以下のような反応が見られました。

表情変化(笑顔になる・悲しい表情になる・泣き出すなど)・・29名

体動(リズムをとる・踊り出すなど)・・23名

歌唱(大声または小声で歌詞を歌う、鼻歌など)・・21名

回想発言(曲にまつわる思い出のエピソードを話す)・・18名

曲名想起(曲名または歌手名を答える)・・17名

 

全体的には、反応ありの方で、予想通り、HDS-R平均が高かった(低いほど、認知症が進んでいる)のですが、表情と歌唱では同程度でした。

考察2

音楽に関連する記憶や影響が重症の方においても保持されている様子が、多くの方で観察されました。

回想発言(エピソード記憶)・曲名想起(意味記憶)に関連する反応は予想通り低かった結果でしたが、

表情(情動変化)や歌唱(手続記憶)については、認知症の影響を受けにいことが示唆されました。

 

2019年までのまとめ

2018年/2019年は、米国で行われている認知症重症者への個人別音楽聴取(Personalized Music Listening)が、日本でも施行可能か、可能な場合は効果は見られるか、について検証しました。

その結果、思い出の曲を聞いてもらった重症の方の多くに、QOLスコアの改善の他、問題症状の緩和や言語能力の改善が見られました。

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2021の抱負

来年も認知症専門床に入所される、多くの利用者さんに、思い出の曲を聴いて頂きたいと思います。

これまでの観察項目に加え、血圧や脈拍測定などを行うことで、身体への影響を含めた情動変化を観察していきます。

また、選曲についても、より個々人の嗜好や年代に合わせた個別曲を聴いていただき、

曲の発売年当時の利用者様のご年齢や、曲調、歌詞の内容、テンポなどと、反応の関連を検証していきたいと思います。

 

また今年は感染症流行下において、集団の演奏会やレクリエーションなどが休止となりましたが、個別音楽聴取については、個別のリハビリとして、施行の継続ができました。

施設内でのクラスター発生時などには、もちろん、医療的な対応が優先となり、個別リハビリも休止となることが想定されるため、感染症対策を継続しながら、可能な範囲で、取り組んでいきたいと思います。

 

 お読みいただき、ありがとうございました🐈🎧

 

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 *尚、施設での個別音楽療法の研究においては、調査・研究上の倫理原則に則って行なっております。