精神科医Dr.Chikaの音楽と認知症

楽曲制作と認知症重症者への個別音楽聴取に取り組んでおります。

【音楽と認知症】認知症重症者への「個別音楽聴取」 2020年までの施行結果と学会発表の記録

2020年は、認知症専門床に入所される、多くの重度の認知症の利用者さんに、ヘッドフォンで思い出の曲を聴いて頂きました。

その中から、28名の方について観察記録を行い、昨年までに観察を行なった6名の方も合わせて34名の方の反応から、重度の認知症の方への音楽聴取の効果を検証しました。

その結果を集計し、2021.9月の117回日本精神神経学会で発表をさせていただきます。

以下は発表内容の概要になります。

方法の説明

  • 2018.4-2020.11に認知症専門床に入所された、通常のリハビリ介入が困難である、重度の認知症の利用者さんを対象に、個々人の思い出の曲を、ヘッドフォンで聴いていただいた
  • 頻度は1回3曲を合計5回(15曲)(反応が高く、問題症状が顕著な方については、そのまま長期間にわたって聴いていただきました)
  • 認知症高齢者のQOL評価表と、周辺症状(心理的な症状)のスコア(NPI-Q)を用いて介入前後の様子を評価した
  • 聴いている時の反応有無を、5つの項目(歌唱・回想発言・曲名想起・表情変化・体動)で記録した
施行時の反応5項目について

尚、5項目の反応の有無は以下のような脳の機能が保たれているかどうか、についての指標と考えました。

歌唱:手続き記憶(自転車の乗り方、ギター演奏など習得したことの記憶)や言語能力

回想発言:エピソード記憶(思い出の記憶)

曲名想起:意味記憶(言葉の意味などの記憶。ただし曲を知っていることが前提条件)

表情変化:情動の変化

体動:リズム感

 

[2021.8.13追記]結果・考察を修正いたしました↓

目的・今回検証した内容

  • 対象者を増やし効果判定を進めることを目的に、

    (1)QOL改善に影響を与える要因(属性/反応)の検証

    (2)聴取時の項目別反応有無と重症者が保持する能力の検証

を行いました。

(属性=年齢・性別・HDS-R・施行前QOLスコア/施行前NPI-Q)

結果概要

34名中28名へ全5回施行可能でした。(赤の2名は拒否、黄色の4名は5回未満でした。)

全5回施行した28名中、青色の14名でQOLスコア上昇(そのうち白色の3名でNPI-Q低下し周辺症状改善)を認め、緑色の14名でQOL不変でした。

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反応測定の結果

5回施行可能の28名中、以下の順に高い割合で反応が見られました。

・表情変化(笑顔になる・悲しい表情になる・泣き出すなど)・・26名(92.9%)

・体動(リズムをとる・踊り出すなど)・・21名(75.0%)

・歌唱(大声または小声で歌詞を歌う、鼻歌など)・・20名(71.4%)

・回想発言(曲にまつわる思い出のエピソードを話す)・・16名(57.1%)

・曲名想起(曲名または歌手名を答える)・・15名(53.6%)

 

→音楽に関連する反応・記憶が重症の方においても高い割合で保持されていると考えられました。

 

●以上の結果を統計学的に検証するため、検定を依頼しました。その結果をもとに、検証した結果が以下になります↓

検証

(1)PMLによるQOLの変化について

・Paired T検定という検定手法で、検定を行ったところ、P値0.002<0.01と低値でした

→厳密にはPMLを行わない対照群の設定が必要ですが、少なくともPML前後でQOLスコアが上昇したことが示されました。

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(2)QOL変化量を応答変数とする重回帰分析

QOL変化に影響を与える要因を探すことを目的に、属性(年齢・性別・HDS-R・施行前QOLスコア/施行前NPI-Q)と反応5項目のそれぞれの変数がQOL変化に寄与する程度を、重回帰分析という検定手法を用いて結果を検証しました。

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その結果、

・どの標準偏回帰係数も高くはなく、P値からも有意差はない

・自由度修正済み決定係数は0.07と低値

→これらの変数では、ほぼQOLの変化を予測できない

という結果となりました

(3)QOL変化量を応答変数とする重回帰分析

5回施行可能の28名について、HDS-R 4点以上/未満で2群に分け、聴取時の反応5項目について、フィッシャーの正確確率検定という多重検定の手法で検定を行いました。

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その結果、

回想発言と曲名想起でP値が低く、長谷川式の点数との関連傾向が見られました

表情・体動・歌唱では長谷川式の点数との関連傾向なしと解釈できる結果でした

[考察]

(1)QOL改善に影響を与える要因について

・今回の検証で用いた項目ではQOL改善に関連のある項目はなしの結果でした

→「効果があるかはやってみないとわからない」ことがわかった点で意義があるとも言えます

・また、他の項目(個別曲の有無など)が効果に影響を与えている可能性もあり、今後も引き続き対象者を増やし、検証を続けたいと思います

(2)反応測定と重症者の保持する能力について

音楽に関連する影響が重症患者においても高い割合で保持されることが示されました

・HDS-R<4点の最重症者では回想発言・曲名想起といった言語的表現は欠落していく一方で、表情・体動・歌唱はHDS-Rに関連しないことが示されました。

 

2020年までの結果概要は、以上となります。

2021年も、定期的に、認知症専門床に入所された方へ、個々人の思い出の曲を、ヘッドフォンで、聴いていただいております。

コロナ禍で集団での活動が制限される中で、演奏会・集団音楽療法は長らく休止をしていますが、個別聴取は続けることができております。

 

今後はさらに対象者を増やし、検証を掘り下げ、施設や家庭で簡単に実施できる音楽を用いた介入(音楽療法)としての手法確立とともに、急増する認知症の方々のQOL上昇と問題症状の緩和や、介護者の負担軽減に貢献したいと考えております。

 

感想

2018年から個別音楽聴取の取り組みを始め、認知症の利用者さんに思い出の曲を聴いていただく中で、一定の割合の方に、高い反応や効果を実感しておりますが、ある程度人数が増えるまで、評価が難しい状況がありました。

今回は記録の対象者を34名まで増やせたことで、反応測定や検定結果を、数字に示す形で検証することができました。

音楽療法というものは全般的に、効果があることはわかっていても、それを証明することが難しい分野だと思います。今回は検定を行っていただけたことで、「なんとなく効果がありそうだ」というところから一歩踏み出せたような気がしております。

次回以降も、主観的に評価しがちな音楽の影響を、より客観的に、分析をして行けたらと思っています。

最後に、日々音楽療法をお手伝いしてくださっている作業療法士さんたちや、ご指摘や検定の実施をいただいた共同発表者の方々に、感謝をしたいと思います。

 

 お読みいただき、ありがとうございました🐈🎧

 

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 *尚、施設での個別音楽療法の研究においては、調査・研究上の倫理原則に則って行なっております。