精神科医Dr.Chikaの音楽と認知症

楽曲制作と認知症重症者への個別音楽聴取に取り組んでいます。

【音楽療法新聞】 2020年12月

 

認知症専門床での個別音楽療法 

認知症専門老人保健施設に入所されている認知症の重症者の方に、ヘッドフォンで個々の思い出の曲を聴いていただく個人別音楽聴取。(Pesonalized Music Listening:PML)米国で広められている手法ですが、私の施設でも積極的に取り入れています。

思い出の曲を聴いた利用者さんの反応を、お一人ずつ、ご報告させていただきます。

個別音楽療法の報告19

匿名Sさん 年齢80代後半 男性 アルツハイマー認知症 (HDS-R4点)

【聴く前の様子】

表情硬い・じっと座っている

【好きな曲の情報】

五木ひろし石原裕次郎

【反応が良かった聴取曲】

細雪/倖せさがして(五木ひろし)・夜霧よ今夜もありがとう/ブランデーグラス(石原裕次郎

【聴いている時の様子】

「いい声してるなぁ」と笑顔で話す。「顔は男らしくないけど」と回想する様子あり。ところどころ鼻歌を歌う。「歌うのは得意ですか?」とスタッフが聞くと「聴いてる方が楽だね」と会話が成立している。また自らスタッフに「あなたのお母さんいくつ?」と話しかけたり、石原裕次郎の名前を挙げて話をしている。

【総評】

聴いている時の様子を詳しく見ていきます。

  • 表情の変化があった→情動の変化があった(脳の感情を司る扁桃体が刺激された)
  • 回想発言があった→昔の体験や歌手の顔を思い出していた(エピソード記憶が保存されている)
  • 意味が通じる会話が成立した→言語に関わる脳の領域が刺激された
  • 歌手名を答えられた→言葉の意味などの記憶(意味記憶)が保存されている

Sさんは認知症の進行によって、普段は会話が成り立たないことが多く、体操やレクリエーションにも参加が難しいために、じっと座っていることが多いようなご状態です。そんなSさんが自ら好きな歌手名をリクエストしてくれたことも意外でしたが、曲を聴いている間、回想したり話しかけたりする様子がありました。今後も好きな曲を介して、Sさんの中にある記憶を思い出していただけたらと思います。

個別音楽療法の報告20

匿名Tさん 年齢70代後半 女性 認知症 (HDS-R10点)

【聴く前の様子】

眠そうに座っている

【好きな曲の情報】

美空ひばり

【反応が良かった聴取曲】

川の流れのように/リンゴ追分/柔/東京キッド(美空ひばり

 【聴いている時の様子】

歌詞の内容に反応し「'あの人'って誰だろうね」と話す。美空ひばりについてのエピソードを話し続ける。歌詞をはっきりと歌っている。ブランデーグラスを聴くと「裕次郎の映画昔よく見てた」と話す。「いい声してるよね。探るようなね。」と。集中が途切れると徐々に曲とは関係のない話が出てくるようになる。

【総評】

  • エピソードを話し続ける→ 記憶や体験が保存されている
  • 歌手名が出てきた→言葉の意味などの記憶(意味記憶)が保存されている
  • 意味が通じる会話が成立した→言語に関わる脳の領域が刺激された
  • 歌詞をはっきりと歌った→歌詞やメロディー・リズムの記憶を覚えている(手続き記憶が保存されている)

普段は、妄想様の発言(現実離れして意味の通じない会話)が多いTさんですが、曲を聴いている間、会話が成立していました。また歌手について詳しくお話をされていたことも意外な一面でした。普段のリハビリは、塗り絵などが中心で、積極的に取り組めることが限られており、何もせずに椅子に座っていることも多い様子です。今後も音楽が好きな点を積極的に生かして行けたらと思います。

 

個別音楽療法の報告21

匿名Vさん 年齢80代前半 女性 混合型認知症 (HDS-R6)

【聴く前の様子】

傾眠。表情険しい。

【好きな曲の情報】

なし

【反応が良かった聴取曲】

いつでも夢を(橋幸夫吉永小百合)・365歩のマーチ(水前寺清子)・明日があるさ坂本九)・銀座の恋の物語(石原裕次郎・牧村旬子)・高校三年生(舟木一夫

 【聴いている時の様子】

足を動かしてリズムをとりながら歌っている。大きい声で歌い、足や首でうなづくようにリズムをとっている。真剣な表情で最後まで歌い続ける。「君といつまでも」を聴いている時も、「いつでも夢を」を歌っているなど、聞いている曲とは別の曲を歌っている。銀座の恋の物語を聴くと「裕ちゃん?」と尋ねる。石原裕次郎について話し始める。曲が終わると「ありがとう」と笑顔。

【総評】

  • 大きい声で歌いリズムをとる→歌の記憶(手続き記憶)や運動の記憶が保存されている。
  • 歌手名が出てきた→言葉の意味などの記憶(意味記憶)が保存されている

Vさんは転倒して骨折・手術をした後、今は車椅子で生活をされています。

体を動かすことが少なく、何もせずに座っている時間が多いのですが、今回の音楽療法でとても歌がお上手であったことがわかりました。味のある良い声でしたので、是非これからも好きな曲をたくさん歌っていただきたいです。

 

個別音楽療法の報告22

匿名Wさん 年齢80代前半 女性 レビー小体型認知症(HDS-R4)

【聴く前の様子】

傾眠。座っている。

【好きな曲の情報】

なし

【反応が良かった聴取曲】

明日があるさ坂本九)・高校三年生(舟木一夫

 【聴いている時の様子】

聴きだすと表情が和らぐ。歌うことはないが、スタッフが「知っている曲ですか?」と質問すると「知っている」と答える。別の曲で「知っている曲ですか?」と質問すると「知ってない」と答えた。リズムに合わせて微かに手を動かす。明日があるさを聴いている時に、途中で2回声を「くくく」と出しながら笑いだす。愛燦燦で「知っていますか?」と聴くと「ひばりでしょ」と初めて歌手名を答える。リズムに合わせてうなづく動作あり。曲が終わると「終わっちゃった」と話す。

【総評】

  • 表情が和らいだ。笑い出した→情動の変化があった(脳の感情を司る扁桃体が刺激された)
  • リズムをとる→歌や音楽に関する運動の記憶が保存されている。
  • 歌手名を答えた→言葉の意味などの記憶(意味記憶)が保存されている

Wさんは眠そうにしていることが多く、起きていても無表情で座っています。

表情の変化がほとんどないので、曲を聴いて笑ってもらえたことは大きな変化だったと思います。「くくく」と笑ったのは、何か思い出したことがあったのか、歌詞や歌がどこか面白く思ったのか、理由はわかりませんが、歌詞の言葉の意味を理解していたことが伺えます。これからも好きな曲で笑顔になってもらいたいと思います。

 

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*個別音楽療法は、認知症重症者のQOLの向上や問題症状の緩和を目的に、私が勤務する認知症専門老人保健施設での独自の取り組みとして実施しています。