2018.4月〜11月にかけて、個別音楽聴取の効果判定を目的に、認知症専門老健保健施設での施行を行いました。
4月〜8月までの結果を2018の日本精神科医学会(長野)で、4月〜11月までの結果を2019の精神神経学会(新潟)で発表させていただきました。
2018/2019までの結果と学会で発表させていただいた内容をまとめたいと思います。
Dr.Chikaの『音楽と認知症』パーソナルソングが認知症患者の心を呼び覚ます
日本での認知症への音楽療法の位置づけ
・認知症疾患治療ガイドライン2017でBPSDへの対応は非薬物療法を優先することが原則とされている
音楽療法の分類
受動的音楽療法:音楽を鑑賞する(個別音楽聴取はこちらに分類される)
日本の先行研究
・いずれも集団音楽療法が主に軽度の患者を対象に施行されている
・結果は軽度・中等度患者では有意な症状改善を認め、重度では改善を認めなかったとされている
・ヘッドフォンを介した音楽刺激で好みの音楽での脳波の反応性の増強を認めたり
・幼少期の曲よりも成人期に歌った歌謡曲で肯定的な反応を示す傾向があると報告されている
日本で行われている認知症への音楽療法まとめ
重度認知症患者への積極的な施行は行われていない
個別の介入や受動的な音楽聴取についての研究は不施行であり、検証が必要
米国で行われているPML(Personalized Music Listening)
重度認知症患者への個人別音楽聴取による不穏症状改善が報告されている
Linda Gerdnerの先行研究
・好みの音楽を聴かせることで不穏症状が減少するという実証研究を報告
・リラクゼーションに用いられるクラシック音楽よりも個人的な好みの音楽で症状が有意に改善することを示した
・好みの音楽をヘッドフォンで聴取する「Personalized Music Listening:PMLのガイドラインを作成
施行の目的
・日本で未施行である重度認知症患者へのPMLの施行可能性と有効性の検証
・その再現性や集団聴取、Group Music Listening:GMLとの比較
・他の手段による能動的リハビリ介入を行うことのできない最重症者へのPMLの施行可能性・有効性についての検証
方法
認知症老健の入所者から10名の対象者を選定
様々な周辺症状がみられるリハビリ介入が困難な最重症者(A〜Jさん)を選定
初回施行の方法
・各々に対し1か月ずつPMLを施行
・施行期間前後1ヶ月を含め、職員の協力の下、24時間体制で状態観察を行い症状観察シートに記録
・週1回QOL評価表・BPSDスコア・フェーススケールを用いて評価
再施行・集団聴取の方法
・初回施行後1ヶ月経過後に、入所継続の5名に対し再施行・集団聴取施行
・初回同様に1ヶ月間再施行・その2週間後に集団聴取を同曲目、同頻度で1ヶ月間施行
・観察、評価方法は初回と同様
聴取曲選定
認知症患者の年齢や時代背景などから、成人期に聴いたと思われる歌謡曲を厳選し14曲を事前に選定
個別に好きな曲を聞き取れた場合は事前選定曲に加え、個人別のCDを作成した
施行内容の詳細
・1回15分間・週に3回・全14回ヘッドフォンで聴いていただいた
・音楽療法室またはベッドサイドやフロアにて、複数名同時に施行した
結果
初回個別聴取の結果
(1)QOLスコア:A〜Jさんの10名中、施行期間中に退所した3名(Dさん・Hさん・Jさん)は評価から除外し、7名のグラフを作成・評価した。7例中5例で改善傾向を認め、効果は1週間程で消失した。
(2)BPSDスコア:同様の7例中、2例で改善
(3)フェーススケール:変動は見られるが全体的な改善傾向を認め、効果は1週間程で消失した。
個別聴取再施行・集団聴取の結果
QOLスコア:入所継続のA・F・Gさんへの再施行で、改善傾向再現がみられたが初回より反応性は低下。GMLでは改善傾向は認めなかった
BPSDスコア:同様の3名について、ほぼ不変で、改善例はなかった
フェーススケール:ほぼ不変で初回より反応は低下。GMLともに改善傾向なし。
その他の特記事項
初回PML:認知症以外の精神疾患の合併のある2例で拒否あり。合併のない例は施行可能であり、程度の差はあるが全例で何らかの反応・効果を認めた。不穏の減少・言語能力の改善に特に効果を認め、施行終了後も持続する例があった。
PML再施行:施行中の表情変化・歌唱の反応性が初回より減少した
GML:施行中の表情改善はみられたが歌唱はPMLより減少した
個別事象
・疎通困難な対象者同士で施行時間内外での自発的挨拶や簡単な会話など社会性の向上がみられた
・失語が顕著な例で歌詞の歌唱や発語単語数の増加がみられた
・易怒性を認めた例で施行時間外にも自発的に歌唱がみられ、表情改善・不穏減少を認めた
考察
施行可能性について
・能動的リハビリ介入が困難な最重症者へ施行可能であった
有効性について
・不穏減少や言語能力の改善に特に有効な可能性が示唆された。
・反応・効果の有無には個人差が大きかった
・終了後1週間程で効果が消失したため持続的な介入が必要と考えられた
効果の再現性について
・QOLスコア改善の再現は可能であったが、初回より反応性は減少
PMLとGMLとの比較について
・集団聴取よりもヘッドフォンを用いた個別聴取による有効性が示唆された
その他
他の音楽療法と比較しても最重症者へ施行可能な点が重要と考える
まとめ
・重度認知症患者10名を対象に個人別音楽聴取を1ヶ月間施行し5名を対象に再施行・集団聴取との比較を行った。
・不穏減少や言語能力の改善への有効性が示唆された
・QOLスコア・フェーススケールの全体的な改善傾向を認めた
・再施行よりも初回で有効、集団聴取よりも個別聴取で有効であった
・日本でのPML施行可能性が確認され、重度認知症患者への非薬物療法としての有効性が示唆された
お読みいただき、どうもありがとうございました。🐈🎧🎵