精神科医Dr.Chikaの音楽制作所/Psychiatrist Dr.Chika's Music Laboratory

認知症・ビートルズ・楽曲制作についての雑記となります/Various things about dementia,Beatles,MusicMaking....

【音楽療法新聞】 2020年7月

認知症専門床での個別音楽療法 

私が勤務する認知症専門老人保健施設に入所されている認知症の重症者の方に、ヘッドフォンで個々の思い出の曲を聴いていただく個別音楽療法

施行終了した方についての報告です。作業療法士さんとの動画と共に、お届けします。


Dr.Chikaの『音楽と認知症』(その6)~パーソナルソングが認知症患者の心を呼び覚ます【方法解説】施行開始!A・B・Cさんの反応

個別音楽療法の報告1-1

匿名Aさん   70代前半/女性 前頭側頭型認知症HDS-R 7点)

【普段の様子】

歩行:自立 リハビリ参加:一部 自発語:なし 問題症状:独語 意思疎通:可能

【好きな曲の情報】

美空ひばり 

【聴く前の様子】

独語が見られ、声かけにも拒否的

【結果】

ヘッドフォンをつけようとすると怒ってしまい、聴きたくない様子。

★追記:個別音楽療法の報告1-2(再施行)

約10ヶ月後、時期を変えて、再度試みました。

初回とは全く異なり、大変良い反応が見られました。

【反応が良かった聴取曲】

川の流れのように/リンゴ追分/真っ赤な太陽/お祭りマンボ/港町十三番地/愛燦燦/越後獅子の歌(美空ひばり)

【聴く前の様子】

徘徊している・椅子に座りずっと腕を掻いている・穏やか

 【聴いている時の様子】

曲が始まるとすぐに声量大きく歌いだす。笑顔絶えず、時々声をあげて笑う。独自の歌詞やテンポで歌うことも。Aメロが流れている時にサビを歌っていることもある。「涙こらえて」「涙こぼして」「泣かないよ」といった涙と関連のあるワードを独自に歌詞に入れて歌っている。「パンパンパン・・」と言いながら手を広げたりアクションが入ることもある。足でリズムをとっている。一緒に聴いている利用者さんの歌声に「すごい声」と笑っていた。

【コメント】

初回施行時はヘッドフォンをつけようとすると怒ってしまい、施行ができませんでしたが、その後精神症状が落ち着いてきた様子であったため、再施行を試みました。

その結果、大変良い反応が見られました。怒りっぽくなることも認知症の症状の一つですが、心理的な症状は時間の経過に伴い変化していきます。ご本人のペースに合わせて、時間や時期を調整して施行することが大事であると感じました。

 

個別音楽療法の報告2

匿名Bさん   90代前半/男性   認知症HDS-R 4点)

【普段の様子】

歩行:自立 リハビリ参加:不可 自発語:なし 問題症状:異食・食事摂取低下 意思疎通:不良

【好きな曲の情報】

なし

 【結果】

施行開始日の前日に、身体の体調不良のため点滴を開始した。

止むを得ず施行を中止した。

 

個別音楽療法の報告3【長期継続】

匿名Cさん  60代前半/女性 認知症HDS-R 5点)

 【普段の様子】

歩行:寝たきり リハビリ参加:不可 自発語:あり 問題症状:大声 意思疎通:可能

【好きな曲の情報】

山口百恵・荻野目洋子・郷ひろみ:ご家族よりCDを持参いただいた

【反応が良かった聴取曲】

いい日旅立ち/イミテーションゴールド/プレイバックPart2/ロックンロールウィドウ/横須賀ストーリー/乙女座宮/謝肉祭/青い果実/愛に走って(山口百恵

【聴く前の様子】

ベッド上で傾眠・眉間にしわを寄せて無言・大声で独語が続いている時もある

【聴いている時の様子】

はっきりと声に出して歌っている:手足を共に動かしている。常に笑顔。特に好きな曲では最も大きな声が出る。2度目以降はスタッフが音楽を聞きましょうと声かけをするだけで目を見開き笑顔に。前奏から「パパパ」と歌いだす。自ら曲名を言う。曲を止めると、口角が下がりがっかりする様子。山口百恵さんのCDを一通り聴き終わり他のCDに変更すると、「知らない」と顔をしかめどんどん表情が曇る。「変えてー」と嫌がっている。再び山口百恵のCDに戻すと笑顔で歌いだす。山口百恵の話を自ら語り始める。曲が終わった後もリズミカルに声出しあり。「愛に走って」が最も反応良く、腕を上下させてリズムをとる。笑い声を漏らしながら歌う。

【長期継続の結果】

 とても反応が良いことと、個別音楽療法以外のリハビリ介入が困難なご状態であることから、3ヶ月継続した。

HDS-Rの変化:5点(施行前)→8点(1ヶ月後)→11点(2ヶ月後)→6点(3ヶ月後)

QOLスコアの変化:18点(施行前)→21点(1ヶ月後)→21点(2ヶ月後)→21点(3ヶ月後)

【普段の様子の変化・特記事項】

大声を出すことが少なくなった。 

 

drchika.hatenablog.com

 

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*個別音楽療法は、認知症重症者のQOLの向上や問題症状の緩和を目的に、私が勤務する認知症専門老人保健施設での独自の取り組みとして実施しています。